契約夫婦なのに、スパダリ御曹司は至極の愛を注ぎ続ける
数種類のお風呂を済ませてレストラン前に行くと、すでに悠介の姿があった。
くすんだブルーの浴衣に抹茶色の羽織が、思わず息をのむほどに似合っていて、カッコいいという感想が素直に浮かんだ。
周りを通りがかった女性客がチラチラと視線を送っているのを見て、みんな同じ感想なんだなとなんとなく嬉しくなる。
有沢グループの御曹司という立場に生まれながら、家柄に甘えずに弁護士資格を一生懸命頑張ってとった悠介が誰かに認められているところを見るのは喜ばしいし、なぜか私が鼻が高い。期間限定とはいえ、妻だからだろうか。
男性客の浴衣は一種類だけなのに対し、女性客は十種類以上の柄から選べるようだったので、白い生地にワインレッドでガーベラのような大輪の花が描かれているものを選んだ。部屋のカーペットと同じ柄なので、きっと夏美さんのブランドのメインなのだろう。羽織は、男性と同じく抹茶色だ。
すれ違う女性客が着ている、ピンクや黄色、紺に赤と色とりどりの浴衣を目に留めながら悠介に声をかけ、その後はコース料理に舌鼓を打った。
──そして、問題は部屋に戻ったときに起こった。
薄々気付いてはいたけれど、この部屋、ベッドがひとつしかない。そのひとつのベッドのサイズが異常に大きいので、ふたりどころか四、五人でも眠れそうだし広さには問題はない。
ただ、さすがに男女で眠るのはどうだろうと考えるのは、先週の洗面所ハプニングが頭をよぎるからだ。
あれ以来、なんとなく悠介との距離感がわからなくなっていたことを、今更思い出してしまい、タイミングの悪さに自分自身が嫌になる。