どうも、噂の悪女でございます
壁に精緻に描かれた絵画の隙間には惜しげない金箔が施され、縦溝彫りになった柱の上下にも繊細な彫刻が施されている。
見上げる程に高い天井からは、数え切れないほどのクリスタルを使用したシャンデリアが吊り下がる。
王立学園卒業記念舞踏会が行われていたこの豪奢な大広間に、大きな声が響きわたった。
「マーガレット・ベイカー! 貴様との婚約を破棄する!」
人々が歓談する賑やかな喧噪で包まれていた大広間は一瞬で水を打ったように静まりかえる。
人々の中心には、本日この王立学園を卒業したばかりの、王太子であるイアン王子がいた。そして、イアン王子と向き合うように立っているのは美しい金髪を半分結い上げた、彫刻と見まごうばかりの美しい令嬢だ。
「…………。恐れ入りますが殿下。理由を伺っても?」
婚約破棄を告げられた令嬢──ベイカー侯爵家のマーガレット・ベイカーは表情を崩さずに静かにイアン王子に問い返す。
「その白々しさは流石は悪女といったところだな。貴様の数々の悪行はわかっているんだ」
「あの……、悪行と仰いますと?」
「しらばっくれるな! お前はたまたま聖女の力があったが故に俺の婚約者になれたことを利用して、傍若無人な行動を繰り返していたそうではないか! お前は既に、生徒の間で噂の悪女として有名だ! メアリーもそう証言している」
「メアリー?」
マーガレットは眉根を寄せる。
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