どうも、噂の悪女でございます
「……聖堂で挨拶?」

 この国には聖なる力を持った聖女が定期的に現れ、国を守る浄化を行う役目を負う。
 そして、聖女には人々に幸せを分ける加護の力もあるとされており、学園でも全生徒と聖堂で挨拶を交わす機会がある。
 相手は挨拶する相手がマーガレット一人でも、こちらは全生徒が相手なのだ。そのひとりひとりまでどんな会話を交わしたかなど、記憶にない。

「その表情は、身に覚えがあるようだな」

 イアン王子が勝ち誇ったように的外れなことを言い、ビシッとマーガレットを指さす。

「お前のような聖女とは名ばかりの悪女は許すわけにはいかない。よって、今ここに婚約を破棄する!」

 冒頭と同じ言葉を、イアン王子はもう一度言う。
 そして、決まったとばかりにふっと口角を上げる。

(これ、どうすればいいのかしら?)

 マーガレットは頭痛がしてくるのを感じた。
 イアン王子は元々賢明な人ではなかったが──。

(ここまで愚かだとは思っていなかったわ)

 このような多くの生徒──そのほとんどが将来自分を支える立場になる貴族が集まる場で、婚約者でもない一介の男爵令嬢を抱き寄せて、誰が聞いても完全に言いがかりとしか思えないことで糾弾し、挙げ句の果てに婚約破棄を言い出すとは。

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