契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
「ええと、ご連絡先をうかがえますか? わたしはこういう者です」

 近くのテーブルにグラスを置いて、ショルダーバッグに入っていた名刺入れから、名刺を一枚取り出した。
 フリーランスやプライベートの名刺のようなかっこいいものではない。シンプルなデザインの社用の名刺だ。
 笹井田(ささいだ)商事株式会社、第三営業部営業二課、浅野結菜。
 地方から大学入学のために上京し、中規模の商社に就職して六年。
 英文学部を卒業した英会話力を生かして海外の支社とやりとりをしたりもするけれど、わたしは一線で活躍する社員ではない。総合職のサポートがメインの一般事務をしている。
 社名と部署名の印刷された白い名刺の端に、自分の携帯電話の番号を走り書きした。

「これを……」

 名刺を渡そうとして、男性を見上げてびっくりした。
 さっきまでのクールな顔が嘘みたいに、不機嫌そうだ。形のいい眉を思い切りひそめている。
 あれ、わたし、なにか失礼なことしちゃった?

「ごめんなさい。もしかして、修理どころの問題じゃないのかしら」

 新しく買い換えないといけない、とか。もしくはカメラは思い出の品で、金銭では解決できないという場合もあるかもしれない。
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