契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
「なにもないですから、とりあえず出てください!」

 手で胸と下腹部を隠して叫ぶと、彼はようやくわたしが一糸まとわぬ姿だということに気づいたようだった。

「す、すまない」

 謝りながらも、伊織さんの視線はわたしから離れない。
 なんだか急に、彼の雰囲気が変わった? 気のせいか、伊織さんのいつも涼しげな瞳が熱い光を宿しているように思える。

「あ、あの、伊織さん? シャワーヘッドを落としただけなので、本当になんともないです」
「そうか、よかった。きみは……やっぱり、綺麗だな。腹に俺たちの子がいるんだと思うと、さらに美しく見える」
「ええっ、い、伊織さん!?」

 恥ずかしさが頂点に達して座り込むと、伊織さんがかすかに唇の端を上げて微笑んだ。
 下からにらみ上げると、彼はようやくバスルームから出ていってくれた。

「もう……」

 深いため息があふれてくる。
 あんなにまじまじと人の裸を見て、しかも美しいなんて大げさなお世辞。オーバーに心配してしまった照れくささをごまかそうとしたのかな。
 意外と心配性な婚約者との同居生活は、思ったよりも前途多難かもしれない。
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