契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 伊織さんは驚いた表情のまま、固まってしまった。
 大丈夫かしら。伊織さんに妊娠を伝えてから、まだひと月も経っていない。
 頭では理解しているだろうけど、受け入れてくれるだろうか。実際に赤ちゃんがここにいて、動いているというのは、結構生々しい事実だ。
 彼はすぐに自分を取り戻し、椅子に座ったわたしの横にひざまずいた。

「少しだけ、さわってもいいか?」

 怖々と申し出る伊織さん。

「もちろん」

 大きな手のひらが、そうっとおなかにふれてくる。力を入れると壊れてしまうとでも思っているような慎重なさわり方。

「なにも感じない」
「びっくりしちゃったのかも?」

 彼の手を見つめながら、わたしは自分のおなかに話しかけてみた。

「赤ちゃん、今のあったかいのは、パパのおててよ」
「パパ……」

 伊織さんが呆然とした口調でつぶやく。
 体温をなじませるようにしばらく手を置いたままでいた彼が、やがて小さくささやいた。

「聞こえてるか? 俺がパパだよ」

 静かなダイニングルームに、優しく響く低い声。
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