契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 その瞬間、目頭が熱くなった。なぜかひどく切なくて泣きそうになる。
 涙をこらえて黙っていたら、急に伊織さんが目を見開いて、わたしを見た。

「今、かすかに動いた……? 錯覚かもしれないが」

 また視線を下げて、柔らかく盛り上がったワンピースを見つめる。

「いや、動いた。動いてる。これが、胎動なのか」

 伊織さんがふたたびこちらを見上げる。
 そして、目を細めて唇を上げ、本当にうれしそうににこっと笑った。

「元気な子だ」

 わたしはたまらなくなってしまった。
 どうしよう。伊織さんが愛しい。
 にぎやかな家庭に憧れていた、子どものころの彼を抱きしめてあげたい。そのさみしさを抱えたまま大人になった今の彼を愛したい。
 我慢していた涙が、ついにこぼれてしまった。
 そろそろと手を外した伊織さんが立ち上がり、覆いかぶさってくる。彼の腕がわたしの頭を優しく抱え込んだ。

「伊織さん?」
「本当に、俺たちの子が生まれてくるんだな」

 おなかにふれたときと同じように、壊れものにさわるみたいに柔らかく抱きしめられる。
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