契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 異変が起きたのは、まだ冷え込みの強い二月下旬のことだ。
 その日、わたしは会社を休んで自宅にいた。具合が悪かったわけではないのだけど、前日に少し出血があって、心配した伊織さんに出社を止められたのだ。

「あ……」

 午後になって、あたたかいお茶でも飲もうと思ってお湯を沸かしているときに、突然おなかが痛くなった。IHコンロの電源を落として座り込む。
 足の間に濡れた感触があった。トイレに駆け込んで見ると生理のときのように出血している。

「どうしよう」

 明らかになにかが起きている。
 怖い。いやな予感がして、心臓が早鐘を打つ。
 額に冷や汗が浮かんだ。

「伊織さん……」

 どうしたらいいのか、冷静に判断できない。ただ伊織さんの顔が頭に浮かんだ。家にいるときでも持ち歩くように言われているスマートフォンで、トイレから伊織さんに連絡する。
 昼休みは終わっている時間帯だったけど、彼はすぐに電話に出た。

『どうした、結菜?』

 低く響く落ち着いた声に安堵して、少し鼓動が収まる。

「伊織さん、どうしよう」
『ん?』
「今、出血してしまって」
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