契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
「ええぇっ!? もしかして……さ、詐欺!?」

 最初に頭に浮かんだのは、結婚詐欺。平凡な一会社員にすぎないわたしの前に、本物のセレブが現れるわけがない。
 多少柔らかい表情になっていた彼――東條伊織さんは、ふたたび顔をしかめた。

「失礼だな、きみは」

 たしかに本物の東條社長だとしたら、詐欺師扱いなんてあまりに無礼だ。

「すみません!」

 焦ったわたしはそのあとすぐ、また失態を犯してしまった。はっと気づいたときには、失敬すぎる言葉が口から飛び出していたのだ。

「でも、あの、本当にわたし、あなたに興味なんかありません! わたしのような身分の者が恐れ多いです」

 あ、やってしまった、とその瞬間口を押さえたが、こぼれてしまった暴言はもう取り戻せない。
 この六年間、無難に会社員生活を送ってきたはずなのに、こんなところでおっちょこちょいな地顔が出てしまうなんて。
 長身のイケメンを恐る恐る上目遣いに見上げると、一瞬きょとんとした彼は突然「ぷっ」と吹き出した。

「俺に興味なんかない、か。まったく失礼すぎる」

 氷の美貌が崩れて、なぜか笑いはじめる。

「しかも、身分ってなんだ。きみ、浅野さん? 現代日本に生きてる?」
< 12 / 153 >

この作品をシェア

pagetop