契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 ここは素敵なレストランじゃない。絶対安静のベッドの上。
 きちんとした服も着ていないし、メイクだってしていない。泣きすぎて腫れたまぶたに、だぶだぶのパジャマだ。
 でも、どんなおしゃれなシチュエーションでプロポーズされるよりもうれしかった。

「はい。もちろん、喜んで」

 わたしがそっとうなずくと、伊織さんは幸せそうに微笑んだ。
 あたたかいオレンジ色の光が彼の頬を照らす。寝室の窓の外は、もう日が暮れかけていた。
 この冬の夕暮れをわたしはきっと一生忘れないだろう。



  * * *



 彼と相談して、会社は休職ではなく退職することにした。
 とにかく今は、わたしを心配して、ひどく心を痛めている伊織さんを大事にしたい。そして、おなかの中の子のために最善を尽くしたい。
 結婚前にシングルマザーになろうと決意したとき、いずれ地元に戻ろうと考えていたので、決断にためらいはなかった。
 上司に電話で切迫流産の件を伝えて、絶対安静のため直接あいさつと引き継ぎができないことを謝った。就業規則にのっとって二週間後に退職となるはずだ。
 さあ、これから数か月、赤ちゃんを守る静かな戦いが始まる。
 でも、きっと大丈夫。どんな出来事だって乗り越えていける。わたしには最愛の味方がいるのだから。
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