契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 意外と笑い上戸なのだろうか。「くくっ」とこらえたような笑いが止まらない。
 しばらく笑ったあと、東條さんは指で目じりの涙を拭きながら、名刺をくれた。もちろん私用の連絡先は書いていないけど、この名刺一枚でもビジネスパーソンにはずいぶん貴重なものだろう。
 改めて謝罪をしようとしたとき、『あきつ島』の発車ベルが鳴った。

「あっ、出発ですね」
「そうだな。先頭の席に行こう」

 東條さんのあとについて、最前列のソファーに行く。運転手の背中が見える特等席だ。
 ほかにも何人か乗客が展望車に入ってきて、左右の窓に向けて置かれているソファーに座る。
 ふと最前列の席の隣に座った東條さんを見ると、最初のクールな表情ともさっきの笑顔とも違う、わくわくした様子でまっすぐ前を見つめていた。まるで少年みたいな視線に少し親近感がわく。

「やっぱり前面展望はいいですよね」

 軽く声をかけたら、東條さんは意外そうに目を瞬かせた。

「前面展望なんて言葉、よく知っているな。鉄道ファンなのか?」
「ふふ、実は『あきつ島』のパンフレットで初めて知りました。知ったかぶりしてごめんなさい。でも、子どものころは、電車の進行方向の窓を見るのが大好きでした」
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