契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 家族が集まったリビング。ソファーのうしろに立った伊織さんが微笑みながら、その光景を眺めていた。
 穏やかな表情に、ふと涙腺が刺激された。
 伊織さんが欲しかったものが、ここにあったらいいな。家族の団らんの外側にいるような顔をして見ているけれど、あなたももうその中の一員なのよ?
 ソファーに座っていた祖母がうしろを振り向いて、伊織さんに声をかける。

「あんた、そんなところにいないで、こっちにおいで。まぁちゃんが呼んでるよ」
「うぁ、うーあ」

 愛菜が伊織さんに手を伸ばした。無垢な瞳で一心にパパを見つめる愛娘に、彼も破顔する。
 長い足で一歩前に出て子どもを抱き上げると、伊織さんがたちまち家族の笑顔の中心になった。

「まぁちゃんはパパが大好きなのね」
「結菜も昔は父さんっ子だった」
「あなたったら張り合ってどうするのよ」

 もう我慢ができなくて、わたしはうっすらと涙ぐんでしまった。わたしの涙に気づいたのか、愛菜も伊織さんの腕の中でぐずりはじめる。

「どうした、愛菜?」

 体をゆらして娘をあやす伊織さん。
 わたしはこっそりと涙をぬぐって、愛しい人に寄り添った。
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