契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
3.最愛の人 - side 伊織 -
生えたばかりの前歯が、小さく切ったりんごを少しずつかじる。
りんごは最近の愛菜のお気に入りだ。歯ごたえが好きらしい。
俺はりんごの皮をむきながら、愛菜の様子を見守っていた。突然持っている食べ物を投げたり、机に置いてあるリモコンを口にしたりするので、目が離せない。
結菜はまだ眠っている。
昨夜は結婚式のあとで疲れていただろうに、つい求めすぎてしまった。だが、俺だけではなく、結菜にも罪がある。結菜がかわいすぎるのが悪いのだ。
「あぁうー」
愛菜がぷっくりした手で、俺にりんごを差し出した。俺は食べかけのりんごのかけらを受け取った。
「パパにくれるのか? ありがとう」
よだれだらけのプレゼントを皿に置き、新しいりんごを愛菜に手渡す。
「きゃっ、あう、ああー」
「……愛菜?」
今、『パパ』って言わなかったか? 空耳だろうか。
「愛菜、『パパ』って呼んだよな? もう一度言ってごらん」
「うぁ?」
「ほら、パパだよ?」
「ぅあーあ」
やっぱり『パパ』と言っている。なんとなくそう聞こえる。
俺は感動で泣きそうになった。あとで結菜に自慢しなければ。