契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
4.ロイヤルスイートルームの朝
「あ……っ、ん、好き……伊織さん、大好き」
「俺も愛してる、結菜」
かすれた低い声が、ロイヤルスイートルームの寝室に甘く響く。
粉雪が激しく舞う北国の夜。わたしと彼の声以外に目立った音はせず、室内は静かだ。
その静寂を縫って、時折かすかな金属音がリズミカルに響く。車輪がレールを走る音――そう、ここは列車の中なのだ。
『グラントレノ あきつ島』。日本で一二を争うゴージャスなクルーズトレイン。
伊織さんと初めて出会ったこの豪華列車に、わたしたちはふたたび乗車していた。
エレガントなインテリアも、快適な接客も以前とまったく変わらない。前回お世話になったクルーが、有名人の伊織さんだけじゃなくて、わたしのことも覚えていてあいさつしてくれたのがうれしかった。
およそ二年半ぶりの乗車になる。
今日は二回目の結婚記念日をお祝いするために、伊織さんが一泊二日の旅の予約を押さえてくれた。百倍を超えるという倍率のチケットをどうやって確保したんだろう?