契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
3.ふれあう心
わたしが予約した八号車のゲストルームは、『グラントレノ あきつ島』の中では一番リーズナブルなクラスの部屋だ。
リーズナブルとはいっても立派なスイートで、それほど広くはないけれど、二階建てになっている。
上は、気楽にくつろげる畳の小部屋。下は、リビング兼ベッドルーム。リビングの大きな窓の横には、ゆったりした一人がけのソファーが二脚あって、座面を引き出すとベッドになる。
面積に限界のある車両の中なのに、シャワーとトイレが別々になっているのもうれしい。
「はぁ……」
わたしは窓際のソファーに、ぽふんと身を投げ出した。ソファーはクッションが利いていて、柔らかくわたしを受け止めてくれる。
「とうとうひとりで、『あきつ島』に乗っちゃった」
初めてクルーズトレインに乗車した興奮がひと段落すると、ずっと見ないふりをしてきた心の痛みが押し寄せてくる。
華やかでゴージャスな豪華列車。その非日常的な空間を精いっぱい楽しもうと決意はしたが、現実は厳しい。
どうしても思い出してしまう。もうひとつのベッドを使うはずだった人のことを。