契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
「ああ、浅野さん、ひとりだったんだ?」
「え、ええ。ひとり旅なんです」
「へえ、女性ひとりでクルーズトレインか。珍しいな」

 彼は、黄金色に輝く液体の入ったグラスを持っていた。
 テーブルには、信州(しんしゅう)産の白ワインのボトルが置かれている。そのラベルに見覚えがあった。

「あ、千曲川(ちくまがわ)ワインバレーのワイナリーですね」

 千曲川ワインバレーは信州、つまり長野県の、北部から東部にかけてのワイン造りが盛んなエリアの通称だ。おしゃれなデザインのワインラベルは、千曲川ワインバレーの中でも有名なワイナリーのものだった。
 東條さんは驚いたようで、少し目を見開いた。

「知っているんだ。さすが、親戚が蔵元だけのことはある」
「それだけじゃなくて、実はわたし、生まれも育ちも信州なんです」

 特に気を引くつもりはないので、早々に謎解きをしてしまう。

「実家は、軽井沢(かるいざわ)の近くの町で温泉旅館をしていて。家族経営の小さな旅館なんですけど」
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