契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 困ってしまって首をかしげると、彼は少しいたずらっぽい笑みを浮かべた。

「名前で呼ぶのはどう? 俺も結菜って呼ぶから」
「……は?」
「呼び捨ては抵抗ある? じゃあ、結菜さん」

 名前に〝さん〟づけは、逆になんだか恥ずかしい。お見合いでもしているようだ。

「いやいや、呼び捨てでいいです。どうぞ、どうぞ」

 と答えてから、なぜ名字じゃだめなのかと疑問がわいてきたけど、彼の勢いに押されてしまう。

「俺のことも呼んでみて? 伊織って」
「ええぇ、それはさすがに無理ですよ。東條さんで勘弁してください」
「ふうん。今はまぁ、いいか」

 顔がいいというのは、ある種のパワーだ。なにが気に入ったのか、機嫌よさそうに笑うモデル並みの美形に、平凡な一般人は逆らえないのだとわたしは悟った。

「さぁ、せっかくだからワインも飲んでみて、結菜?」
「は?」

 いきなりの名前呼びに驚いて、ぷはっと吹きそうになった。食べている最中じゃなくて助かった。
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