契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
〝身分〟の差はわかっているけれど、雲の上の人すぎて媚びる気にもならない。
 それに刹那的な表現だけれど、どうせ一泊二日の旅行中だけの縁なのだ。呼び捨てでもなんでもどんと来い、だ。

「もう、開き直ることにしました。せっかくの豪華列車なんだから、今は役職や立場なんか気にせず楽しみましょうか」
「それには賛成だ」

 東條さんもリラックスした様子で微笑む。
 そのあともおいしいワインを飲みながら、意外と話がはずんだ。
 ランチコースの最後には、新潟の魚沼(うおぬま)産コシヒカリの炊きたてご飯と、信州味噌仕立ての留椀が出てきた。デザートは栗ババロアとシャインマスカットだ。どれも信じられないくらいおいしくて、おなかも心も満たされた気分。
 コーヒーを飲んでひと息つき、ふっと話が途切れたときに、ずっと気にかかっていたことを聞いてみた。

「そういえば、カメラは大丈夫でした?」

 今朝、わたしが展望車で蹴ってしまった一眼レフのカメラ。結局、修理は必要なのだろうか。
 東條さんは軽く肩をすくめた。

「ああ、傷ひとつなかったから気にしなくていい」
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