契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 茶色い枯れ葉をまとい、冬支度を始めた山々が車窓を流れていく。

「体調が悪くても、病院にかかるのを先延ばしにしていたんだと思う。病気が発覚したときには、もう遅かった。兄弟もいないから、俺が会社を継いだ。あっという間の一年だったよ」

 彼は淡々と言ってから、首をかしげて苦笑した。

「なぜかな。こんなこと、だれにも話したことがないのに、きみには話してしまう」
「旅先だもの。この二日間は、現実のしがらみを忘れて気分転換してください」
「ああ、ありがとう」

 コーヒーカップを持ったまま、また景色を眺める東條さん。父親の急死からのCEO就任なんて、聞いているだけでも激動の一年だ。こんなふうにぼんやりとする時間もなかったのだろう。
 流れ去る車窓に時折、赤や黄色に紅葉した木が映る。紅葉は秋空の下、スポットライトを浴びているかのように輝いていた。
 東條さんの疲れもわたしの心の傷も、『グラントレノ あきつ島』というこの特別な空間と非日常の時間の中で、少しでも癒やされますように。わたしは心の中で祈った。
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