契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
「たったひとりのご家族を亡くすなんて、大変でしたよね」
「いてもいなくても変わらないような親だったが、それでも俺の中に情はあったんだろうな」

 わたしは仲のよい家族に囲まれて育ったけれど、東條さんはそうではないみたいだ。
 母親は早くに亡くなり、父親は仕事に打ち込むあまり家庭を顧みない。少年時代はきっとさみしかっただろうなと、他人事ながら少し涙ぐんでしまった。
 東條さんはちらりとわたしを見て、穏やかな笑みを浮かべた。情にもろくて泣き虫なわたしに気づかれてしまったかもしれない。

 おいしいランチのあとは、いよいよ最初の停車駅だ。
 上野駅を出発した『グラントレノ あきつ島』は新潟県の村上(むらかみ)市に向かい、折り返して車内で一泊、軽井沢を経由して上野駅に戻る。
 村上市と軽井沢町では下車して、観光する予定になっていた。
 一日目の観光は、まず日本海。荒波に削られた奇岩や洞窟の連なる『笹川流(ささがわなが)れ』という観光地で景観美を堪能する。そして専用のバスで移動して、ものづくりの盛んな地域のオープンファクトリーを見学するという行程だ。
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