契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 ランチの席で話のはずんだわたしと東條さんは、下車観光でも一緒に行動していた。

「一般客の立場では見せてもらえない、ものづくりの現場の裏側まで見学できるのがおもしろいですね」
「『あきつ島』のためのスペシャルツアーだからな。この列車に乗らないと体験できないというツアーは、乗客の満足感につながる」

 東條さんは経営者としての目線でも、『あきつ島』を観察しているようだ。

「ああ、休日なのに、つい仕事に考えが行ってしまうな」
「それだけお仕事に打ち込んでるってことだから、しょうがないですよね」

 隣を歩いていた東條さんを見上げると、彼は軽く苦笑した。気持ちを切り替えるように、空を見て伸びをする。背が高いので、手足も長い。
 その手のひらの先、よく晴れた空はまだ青いけれど、ランチのころよりも色が濃くなっていた。そろそろ夕暮れが近い。

「日本海の海産物を使ったディナーも楽しみだな」
「そっか、日本海の! 海の幸なら、ワインもいいけど、新潟の地酒が飲みたいです」

 東條さんの言葉に思わず飲兵衛の血が騒いで、うきうきとしてしまう。
< 28 / 153 >

この作品をシェア

pagetop