契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 芸能人のような美形がスマートに手を差し伸べてくるものだから、ついその手を取ってしまう。
 東條さんは綺麗に微笑んだ。

「ああ。まだワインも残っているし、きみにロイヤルスイートルームを見せたいんだ。檜風呂もあるし、最後尾の車両を丸々一両使った部屋だから、後方展望も独り占めできる」
「へええ! 見てみたいです」

 檜風呂があると聞いて、俄然興味が湧いた。わたしの部屋にはシャワーしかないし、列車の中のお風呂ってどうなっているんだろう?
 東條さんが男性だということは、もちろん理解していた。でも、一日一緒に過ごして彼のことを信頼し切っていたし、気の合う友達のつもりでいた。実際は、男と女だったのだけれど。
 なんだかんだ言い訳しても、わたしはつまるところ酔いと好奇心に負けたのだった。



  * * *



 わずかな揺れを感じて目を覚ますと、ブラインドの隙間から朝日が差し込んでいた。
 ベッドサイドのテーブルには赤ワインの空き瓶と、珍しい漆硝子のワイングラスがふたつ。
 そして、わたしの横には、裸の男性が寝ていた。

「うわ……」
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