契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 素知らぬ顔をしたクルーが用意してくれた朝食を取って、午前中はふたりでぼんやりと後方展望の風景を眺めていた。あんな夜を過ごしたあとで気まずいかと思ったら、意外とリラックスして過ごせてほっとした。
 というか、伊織さんがちょっと変。
 傍から見たら恋人なんじゃないかと誤解されるほど甘い態度でベタベタしてくるし、恥ずかしいくらいかいがいしく世話を焼いてくれるのだ。

「結菜、コーヒー飲むか?」
「あ、はい」
「コーヒーを淹れるのは得意なんだ。うまいのを淹れてやるから待ってろ」

 とろけるような笑顔でコーヒードリッパーを手にする伊織さん。
 知的でクールな容貌と、甘く優しい口調が、正直合っていない。
 万事がそんなかんじで、わたしはどういう反応をしたらいいのか戸惑ってしまった。
 だって、モーニングコーヒーを淹れるくらいならまだしも、檜風呂にお湯をためてくれたり、浴槽までお姫さま抱っこで運ぼうとしたり。それはさすがに恥ずかしくて、お断りしたけれども。
 お風呂に一緒に入ろうとする伊織さんをなんとか止めて、ひとりでいい香りのする檜風呂を堪能すると、時刻は昼近くなっていた。
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