契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
2.豪華列車で行こう
十月下旬の東京。通勤ラッシュの時間帯が過ぎ、落ち着きを取り戻した朝の上野駅。
その二十一番線、『グラントレノ あきつ島』専用ホームには、鉄道の駅とは思えないゴージャスな深紅のカーペットが敷かれていた。
カーペットの先には、深い茜色の列車が停車している。金属というより、まるで漆器のような上品な光沢の外装は、雅な和の雰囲気を漂わせていた。
「わぁ、綺麗」
美しい車体に吸い寄せられていた視線をふと周囲に向ける。
「……あ」
するとカーペットの両側に、ぴしっとした白い制服を着た乗務員――クルーが勢ぞろいしていた。
一流ホテルのようなお出迎えに驚いてしまったわたしは、慌ててペコペコと頭を下げる。
「お、おはようございます」
そんなクルーズトレイン初心者丸出しなわたしにも、クルーたちは丁寧にお辞儀をしてくれた。
「いらっしゃいませ、浅野さま」
なぜクルーが初見の乗客にすぎないわたしの名前を把握しているかというと、事前に身分証明書を見せてチェックインしているためだ。
けれど、それだけではない。一番の理由は、もともとの定員が少なくて、クルーが乗客の顔と名前を完璧に覚えられるから。