契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
「え? なんですか? ごめんなさい、聞こえなかった」
「いや、なんでもない」
なにか言いかけた伊織さんが、軽くため息をついた。
雲場池を見学しているのは、団体客だけではない。平日だけど休みを取っているのか、社会人らしきカップルの姿もあった。仲よさそうに腕を組んで遊歩道を歩く恋人たち。
わたしは胸の奥がチクッと痛むのを感じた。吹っ切れたつもりだったのに、まだ心の傷は消えていないらしい。
浮気をされた時点で気持ちは冷めていたけれど、好きだったという記憶は残っている。
こんな苦い想いは、もうこりごりだった。周囲の人たちの無責任な好奇心も、わたしから恋人を奪った後輩社員の優越感に満ちた表情も、なにもかもうんざり。
「しばらく、恋はしたくないなぁ」
思わず本音がもれてしまった。
そのとき、恋人つなぎをしていた伊織さんの手がするりと離れた。
「伊織さん?」
「そろそろ戻ろうか」
今まで手なんかつないでいなかったかのように、伊織さんが自然に歩き出していた。伊織さんの背中に、ひらひらと赤いモミジの葉が散りかかる。
「いや、なんでもない」
なにか言いかけた伊織さんが、軽くため息をついた。
雲場池を見学しているのは、団体客だけではない。平日だけど休みを取っているのか、社会人らしきカップルの姿もあった。仲よさそうに腕を組んで遊歩道を歩く恋人たち。
わたしは胸の奥がチクッと痛むのを感じた。吹っ切れたつもりだったのに、まだ心の傷は消えていないらしい。
浮気をされた時点で気持ちは冷めていたけれど、好きだったという記憶は残っている。
こんな苦い想いは、もうこりごりだった。周囲の人たちの無責任な好奇心も、わたしから恋人を奪った後輩社員の優越感に満ちた表情も、なにもかもうんざり。
「しばらく、恋はしたくないなぁ」
思わず本音がもれてしまった。
そのとき、恋人つなぎをしていた伊織さんの手がするりと離れた。
「伊織さん?」
「そろそろ戻ろうか」
今まで手なんかつないでいなかったかのように、伊織さんが自然に歩き出していた。伊織さんの背中に、ひらひらと赤いモミジの葉が散りかかる。