契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
「ええと、社長の東條伊織さんにお取り次ぎいただけませんか。名前をお伝えいただければ、おわかりになると思うのですが」

 いや、だめだ。口に出してから、これではものすごくあやしいと自覚した。
 当然、受付の女性は困ったように問い返した。

『御社のお名前をいただけますか』
「は、はい」

 万が一勤務先の会社に連絡が行ってしまったらまずいので、社名は名乗れない。わたしは苦肉の策で実家の旅館の屋号を伝えた。

「長野県にございます浅野屋旅館です。いつもお世話になりましてありがとうございます」

 いつもお世話になっているような実績なんてなにもないが、今は伊織さんがわたしのことや実家の温泉旅館を覚えていると信じよう。

『浅野屋旅館の浅野結菜さま、わたくしのほうで代わりにご用件をおうかがいします』
「はい、あの……できれば早めにご連絡をいただきたいとだけ、お伝えいただければと存じます。連絡はこちらの携帯までお願いします」

 わたしは携帯の電話番号を伝えて、電話を切った。それ以上具体的なことは言えなかった。
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