契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 クルーズトレイン『グラントレノ あきつ島』は十両編成の長い列車だけれど、客室はたった十五室。
 パンフレットには、すべての部屋がスイートルームだと書かれていた。各室の定員が二、三名なので、つまり一回の運行で三十名程度しか乗車できないのだ。

「浅野さま、お部屋までご案内します」

 女性のクルーがわたしのスーツケースを持ってくれる。

「すみません! 自分で持てますよ」

 一泊二日の旅だけれど、車内のレストランのドレスコードはセミフォーマル。外歩き用のカジュアルな服のほかにパジャマも必要だし、きちんとしたワンピースに合わせたハイヒールやアクセサリーも持参しなければならない。
 意外と荷物がかさばって、スーツケースは海外旅行並みの大きさだ。

「あの、重いですし、申し訳ないです」
「問題ございません」

 彼女はにこりと笑って、スーツケースを持っていないほうの手で「どうぞ」と列車を指した。
 列車なのに、エントランスと表現したくなるような立派なドア。その横には、夕日とトンボをおしゃれにデザインしたエンブレムが掲げられている。
 このエンブレムのロゴは、『グラントレノ あきつ島』の象徴だ。
 トンボの飛び交う、実り多き国、日本。
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