契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
2.契約のプロポーズ
東條ホールディングスの広いエントランスのまわりは、華やかなイルミネーションで飾られていた。
輝く光に彩られた巨大なビルの中から、コートに身を包んだ大勢の会社員があふれ出てくる。
ふとその人波が、左右に分かれた。人々は足を止めて、エントランスの階段を降りる背の高い男性に注目する。
「伊織……さん?」
圧倒的な存在感でこちらへ歩いてくるのは、日本でも有数の大財閥である東條ホールディングスのトップ、東條伊織さん。
『クルーズトレイン あきつ島』の旅で出会ったときも、俳優やモデルのようにかっこよかった。けれど、大企業の本社が集まる大手町の真ん中では、もっと迫力を感じる。トップエリートのオーラのようなものが全身から放たれている。
一瞬具合の悪さも忘れて見とれていたら、大股で近づいてきた彼が柔らかく微笑んだ。
「結菜、久しぶりだな」
「はい、今日は突然申し訳ありません」
「また会えてよかった」
伊織さんの言葉に周囲がざわめいた。
その反応を見て、こんなところで親しげな会話をしていたら誤解されてしまうかもしれないと気がつく。
東條グループの独身社長が、本社の前で女性と仲よく話していたなんて、スキャンダルの格好のネタだ。