契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 車を降りて、わたしのためにドアを開けてくれた運転手さんに、伊織さんが命じる。

西麻布(にしあざぶ)の例のレストランへ行ってくれ」

 東條ホールディングスの社員たちが見守る前で、わたしは伊織さんとともに社長車に乗り込んだ。
 思いもかけず、派手なことになってしまって焦る。でも、こうなったら、彼についていくしかない。
 伊織さんが連れていってくれたのは、西麻布の路地裏にあるモダンフレンチのお店だった。

「わたし、こんな会社帰りのスーツでいいのかしら」

 思わずつぶやいたのは、レストランの外観が浮世離れしていたからだ。雑踏から敷地内に一歩入ると、木立に囲まれた小道がある。その奥には、都会のビルの一階とは思えない、小さな洋館のようなデザインのエクステリアがあった。
 伊織さんはわたしの背中をそっと押して、中にエスコートしてくれた。

「気にすることはない。意外とカジュアルな店だから」

 通されたのは、ふたり用の個室。内密の話をするのにはありがたいけれど、とても伊織さんの言うような『カジュアルな店』とは思えない。
< 56 / 153 >

この作品をシェア

pagetop