契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 センスのいいおしゃれな部屋の壁には大きなアクアリウムがあり、美しい水中の箱庭を眺めながら食事ができる。大人の隠れ家といった雰囲気で、伊織さんにはよく似合っていた。
 やや暗めの照明の下で、伊織さんがわたしを見つめて微笑んだ。

「まずは軽めの赤ワインでいいかな。それともシャンパン?」
「あ……実は今、お酒はやめていて。オレンジジュースをお願いできますか」

 アルコールを断ると、伊織さんが怪訝そうな顔をした。

「結菜はたしか、酒が好きだったよな。酔っ払い方がかわいかった」
「えぇっ!? かわいくなんかないです。あの、その節はご迷惑をおかけしてすみません」
「そういえば、顔色がよくないな。もしかして、なにか病気が? その相談なのか?」

 伊織さんはさっと青ざめて、眉間にしわを寄せた。

「ち、違います。病気じゃないです」
「それならいいんだが……」

 そのとき、ノックの音がして、ギャルソンが入ってきた。
 落ち着いた壮年の男性で、一礼してから丁寧にメニューを説明してくれる。
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