契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
「オードブルはアンディーブと生ハムのフロマージュ・ブラン・ソース、ハマグリのカプチーノ仕立て、彩り野菜のムーステリーヌ、メインは肉料理と魚料理をご用意しておりますが――」

 ふだんならうきうきするところなのだけれど、聞いているうちに気もそぞろになってしまう。
 前菜が運ばれてくるころには、本格的に気分が悪くなってしまっていた。つわりがひどくて食事どころではない。

「結菜、本当に大丈夫か?」

 伊織さんがテーブルの上の皿を端に寄せて、わたしの手を握ってきた。心配そうに顔をのぞき込んでくる。
 彼がわたしを気づかってくれる表情は本物に思えた。立場的には雲の上の存在だけれど、気さくな優しい人だったはず。その印象は再会してからも変わらない。
 わたしはためらいを振り切るため、伊織さんにまっすぐ目を向けた。
 今こそ勇気を出さなくては。本当のことを言うんだ。

「伊織さん、お話があります」

 彼もわたしの真剣さを感じたのか、無言でうなずいた。
 深く息を吸い込んで、ゆっくりと吐く。できるだけ冷静に話そう。

「びっくりすると思うけど、わたし……おなかに赤ちゃんがいます」
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