契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 伊織さんはわたしの目を見つめたまま、二、三回ゆっくりとまばたきをする。
 そして、そのまま彫像のように固まってしまった。テーブルの上で重ねられた手も、ぴくりともしない。
 わたしはかすかに震える声で告げた。

「――あなたの、子です」

 ついに、言ってしまった。
 伊織さんの反応が怖くて、顔を上げていられない。手を引こうと思ったのに、自分の体じゃないみたいに動かせなかった。
 冷静でいようと決めていたのに、そのうち全身が震えてくる。伊織さんの大きな手のひらに包まれた手も小刻みに震えて、止まらない。
 思わず泣きそうになったとき、伊織さんがわたしの手をぐっと強く握った。こわごわと顔を上げると、まだ呆然としている目がわたしを見つめていた。
 突然の話で、言葉が見つからないのかもしれない。彼の形のいい唇が一回開いて、また閉じた。
 わたしは半泣きの小さな声で訴えた。

「『あきつ島』の……あの夜、妊娠してしまったみたいで」

 ごくりとつばを飲み込む伊織さん。

「それは、たしかなのか? 俺はコンドームをつけていたはずだが」
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