契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 古来、日本は秋津島(あきつしま)と呼ばれていた。秋津とは、トンボの古い呼び名。つまり日本はトンボの国なのだ。
 そのトンボをロゴマークにした豪華列車で、日本の豊かな自然の中をゆったりと旅する。それがこの『あきつ島』のコンセプトだという。

「すごい……」

 列車の出入り口から一歩入ると、そこはまるで五つ星ホテルのような空間だった。
 エントランスホールを兼ねたサロンカーは、明治や大正の時代をほうふつとさせる和洋折衷の雰囲気だ。
 木をふんだんに使った内装は、今回のルートの沿線である長野(ながの)県や新潟(にいがた)県の伝統工芸らしい。
 居心地のよさそうなソファーのうしろには、ピアノや暖炉も置かれている。

「わぁ、とても電車の中とは思えない!」

 思わず大きな声を上げてしまった。クルーたちはあたたかく微笑んで、そんなわたしを見守ってくれていた。
 豪華列車での女性のひとり旅は、たぶん珍しいはずだ。けれど、そんな好奇心はおくびにも出さず歓迎してくれる様子のクルーに、わたしはほっと安堵のため息をついた。
 実は、わたしがここにひとりでいるのには、複雑な事情がある。
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