契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました～強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する～

「産婦人科に行って検査しました。先生が、避妊していても、できてしまうことがあるって」

　わたしのぼそぼそとした声に、伊織さんが集中しているのを感じる。
　彼はもう一度わたしの手を強く握ると、硬い声で言った。

「本当に俺の子なのか？」
「そんな」

　頭がぐらぐらするほど、ショックだった。信じてもらえないかもしれないと思ってはいたけれど、実際に疑われると想像以上に心が痛い。

「わたし、あれ以来、だれともお付き合いしていません。あなたをだまそうなんて……」

　とうとう涙がこぼれた。
　伊織さんが息を呑んだ瞬間に手を引いて、バッグからハンカチを取り出す。こんなみじめな泣き顔なんて見られたくない。
　ハンカチで顔を覆ったわたしの耳に、彼の深いため息が聞こえた。

「すまない。そういう意味じゃないんだ」

　伊織さんは困り果てている。
　困るのも当然だ。こんな素敵な人なんだもの。女性が放っておかないだろうし、仕事関係でもたくさん縁談が来ているはずだ。
　避妊に失敗したからといって、わたしのような平凡でなんの取り柄もない女との結婚なんて考えられないだろう。