契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 誤解を招かないように、これだけは言っておかなければ。

「このことで、伊織さんに結婚を迫ろうなんて思ってません。でも、おろすこともしません。ただ、わたしは赤ちゃんを……」

 そこでまた涙があふれてしまった。
 言葉に詰まりながらなので、聞きづらいかもしれないけれど、なんとか自分の気持ちを伝えたい。

「わたし、赤ちゃんを生みたくて。それをあなたに、報告しておきたかっただけなんです。ご迷惑はおかけしませんから」
「そうはいっても、経済的な援助は必要だろう」
「それはそうなんですけど、お金目当てとかじゃないんです」

 眉をひそめる伊織さんに、やっぱりいやだったんだと落ち込んだ。
 喜んでくれるとは、もちろん思っていなかった。けれど、あの旅がよい思い出だったぶん、結局わたしもほかの欲深い女性たちと同じだったのかと彼に失望されるのがつらい。
 伊織さんは、気持ちを落ち着かせるように赤ワインをひと口飲んだ。

「俺は、結婚も子どもを持つことも、まだ具体的には考えていなかった」
「はい」
「きみに嫌われてしまったのかもしれないとも思っていたしな」
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