契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
「いわば、契約の結婚だ。それなら、きみも納得できるだろう?」
「契約ってどういう意味ですか?」
「子どものためを思ったら父親がいたほうがいいし、金銭面での心配もなくなる。一方で、俺は結婚のプレッシャーから解放される。どうだ、対等な取引じゃないか?」

 早鐘のような鼓動がおさまらなくて、わたしはひざまずく伊織さんをただじっと見ていた。
 本心をうかがわせない硬い表情。わたしをまっすぐ見つめる視線は強く、迷いがない。
 きっと伊織さんは、この短い時間でいろいろな計算をしたのだろう。その結果、不本意な形であっても、この状況を最大限に利用しようと決めたのだ。

「結婚しよう。それが最良の選択だ」
「……わたしは……」

 急に、ひどく切なくなった。
 愛のない結婚。
 わたしは田舎の家族みたいな、愛情にあふれたあたたかい家庭を作るのが理想だった。
 経済的には安定するだろうけど、その夢を捨てて、赤ちゃんとふたり、幸せになれるのだろうか。それでも、やっぱり子どものためには、父親がいたほうがいいのかもしれない。
 気持ちが揺らぐ。苦しくてたまらない。

「……わかりました」
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