契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
3.運命を見つけた - side 伊織 -
一生大切にしたい女性への指輪を買うのなら、ジュエリーオークラと決めていた。
三十数年前、父が母に贈った婚約指輪と結婚指輪がジュエリーオークラのものだったからだ。
俺が小学校に上がるか上がらないかのころに、母が病死した。母の指輪は父が形見として手もとに置いた。父が深夜の書斎でひとり、指輪を眺めていた姿を覚えている。
父が亡くなった今、その指輪がどこにあるのか、俺にはわからない。数多の再婚話を持ちかけられても、ずっと独り身でいた父。ふたたび母に渡すため、父が指輪をあの世に持っていったのかもしれない。
ジュエリーオークラの貴賓室で指輪を試着する結菜を見つめながら、俺は柄にもなくそんなロマンチックなことを考えていた。
「そのハート形の石は、結菜によく似合っているよ」
プラチナの台座に輝くかわいらしいデザインのダイヤモンドは、結菜の愛らしさを引き立てている。感じたままにそうほめると、彼女は困ったように首をかしげた。
「とても素敵ですけど、わたし、こんなのいただけません」