契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 とはいえ、『あきつ島』に乗れる機会なんて、きっと一生に一度か二度だろう。『あきつ島』は月に二、三回しかない運行日に、百倍近い応募が殺到する人気の豪華列車なのだ。
 しかも、このプレミアチケットは、めちゃくちゃ高価。たった一泊二日の旅行で海外旅行並みの料金がかかるのに、楽しまなければ損よね?
 まわりを見まわしながら、うんうんとうなずくわたしに、女性クルーが声をかけてきた。

「浅野さま、荷物はお部屋に運んでおきますね。どうぞ先に車内を見学なさってください」
「あ、はい。ありがとうございます」

 わたしは今度こそ遠慮なく、自分の部屋とは逆方向に歩きはじめた。
 このサロンカーは五号車、隣の六号車がダイニングで、わたしの部屋は八号車だ。これから向かおうとしているのは一号車。
 一号車は展望室になっている。数あるクルーズトレインの中でも、進行方向の景色が見られる〝前面展望〟の車両は珍しいそうだ。チケットに当選して、改めて『あきつ島』について調べたときから、出発はこの場所で迎えたかった。
 だって、運転手さんのうしろから、列車が進んでいく景色を見るのって楽しいんだもの。子どものころ、電車に乗るときは必ず、先頭車両に連れていってもらったことを思い出した。
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