契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 思いがけない妊娠に驚き、途方に暮れたことだろう。ずっとひとりで抱え込んで、悩んでいたに違いない。俺に連絡をして打ち明けるのにも、相当な覚悟が必要だったと思う。
 疲れ切った彼女は、うとうととまどろんでいた。

「結菜……」

 抑えたつもりだった声が耳に届いたのか、結菜は少し目を開けた。

「……なんですか?」
「いや、まだ着かないから休んでいていいよ」
「ん……」

 俺の肩に寄りかかって、ふたたび目をつむる。結菜の寝ぼけた様子がかわいい。
 ジュエリーオークラから彼女のアパートまで車で送りながら、俺は決意を新たにした。
 これからは、もう絶対ひとりにしない。この数か月、心労をかけてしまったが、二度とこんな苦労はさせない。

「社長、浅野さまのご自宅に到着しました」

 運転席から静かな声がした。
 結菜の寝顔に見とれていた俺は、はっとして顔を上げた。
 東京の二十三区内ではあるが、人通りがまばらで庶民的な住宅地だ。同じような形の小さなアパートが並んでいる。

「着いたよ、結菜。起きられるか?」
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