契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
「そ、そっか。まあ、浅野さんにはもっと素敵な人が現れますよ」
「浅野さん、かわいいしね」

 彼女たちは顔を引きつらせながら、オフィスに入っていった。
 わたしもうしろからついていく。もうすぐ十七時。あと少しで、この苦行も終わりだ。
 そういえば、伊織さんと契約結婚の約束をしてから一週間。
 伊織さんは『一週間後には準備を整えて迎えに行く』と言っていた。あの日から毎晩電話はもらっていたけれど、その話題は出ていない。あれはなんだったのかしら。
 妊娠していることも、伊織さんとの婚約も、まだだれにも言っていない。もちろん会社にも、両親にも。その話もそろそろなんとかしなければと思うと、頭が痛い。

 パソコンのデータ入力が終わって腕時計を見たら、十七時を少し過ぎていた。帰り支度をして、エレベーターに乗る。
 笹井田商事は港区のはじっこにある小規模の商社だ。わたしはこの会社で六年、一般事務として総合職の社員のサポートをしている。数年前に配属された第三営業部は、少し古びたこのビルの五階にあった。ほかの階から帰宅する社員たちも乗り込んできて、次々と玄関に向かう。
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