契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
「おぉぉ、豪華な展望車!」

 展望室もやはり和洋折衷な造りで、伝統的な日本の工芸品の中に、モダンな洋風の意匠が加えられている。正面も左右も大きな窓になっていて、今は停車中の上野駅の構内の光景が見えた。

「浅野さま、ウエルカムドリンクをどうぞ」

 背後から声をかけられて振り向くと、男性のクルーがいくつかの飲み物を載せたトレイを掲げていた。

「じゃあ、スパークリングワインをいただきます」

 細いフルートグラスを受け取って、二、三歩歩いたとき、足に硬いものがあたった。

「あ……!?」

 通路の端に小型のバッグが置かれている。やけに硬いそのバッグにつまずいて倒れそうになり、わたしは横にあったソファーの背につかまった。
 スパークリングワインをこぼすのはなんとか避けられたけれど、蹴ってしまったバッグはごろごろと通路を転がっていく。

「ひゃぁっ」

 バランスを取るため、ソファーの背はつかんだまま離せない。わたしは思わずバッグを止めようと、グラスを持っているほうの手を伸ばしてしまった。
 でも、だめだ。これはまずい。グラスが傾いて、スパークリングワインがこぼれてしまう。

「うわ!」

 焦って叫んでしまったその瞬間、フルートグラスがひょいっと宙に浮いた。
< 8 / 153 >

この作品をシェア

pagetop