契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 今日は金曜日。デートに行くとか飲み会だとかいう声も聞こえてくるし、週末を前にしてなんとなく雰囲気が華やいでいる。
 そんな浮かれた空気の中、わたしは落ち込んだ気分のまま、うつむいて歩いていた。

「早く家に帰って休もう……」

 外の寒さに備えて、マフラーに顔をうずめる。雪国である故郷に比べたら全然あたたかいけれど、東京の二月もやっぱり寒い。

「ん? なんだろ」

 エントランスのドアを出たとき、あたりがざわついているのに気づいた。
 主に女性の社員たちが立ち止まって、道路のほうを見ている。いくつかのグループが歩道をふさいでいて歩きづらい。

「あれ、だれ?」
「芸能人じゃない? 知ってる?」
「知らないけど、かっこいいわー。一緒に写真撮ってもらえないかなぁ」

 ざわめく人々の中には、廊下で陰口を言っていた同僚もいる。
 彼女たちを見るのがいやで視線をそらしたら、運悪く、今一番会いたくない人と目が合ってしまった。元カレの奏多さんと、彼の今の恋人、佐々木さんだ。
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