契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
「そんな……!」

 その理不尽な物言いには、伊織さんが反論してくれた。

「きみの横にいるのは、きみの恋人ではないのか? きみに彼女がいるのなら、結菜に婚約者がいてもおかしくないだろう」

 伊織さんの冷静な言葉に、短気な奏多さんは余計かっとしたみたいで、早口でわめく。

「なんだとっ、俺はなんのおもしろみもないアラサーと、お情けで付き合ってやってたんだぞ。そんな結菜が、俺以外の男と結婚できるわけがない!」
「年齢と彼女の魅力になんの関係があるんだ? 結菜ほど一緒にいてやすらげる女性はいない。この人のかわいらしさに気づかなかったなんて、きみの目が節穴だったのではないか?」

 言い込められた腹いせに、奏多さんがわたしを痛めつけようとしているのはわかっていた。それでも、一度は付き合っていた人の言動だ。わたしだって傷つく。
 けれど、それ以上に伊織さんのあからさまなお世辞が恥ずかしくて、それどころじゃなくなった。

「い、伊織さん、もういいから」

 わたしがコートの背中をつつくと、彼は振り返って、とろけるほど甘く微笑んだ。
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