契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
 彼女は引きつった笑みを浮かべて、上目づかいでわたしを見る。

「あの、この人、ちょっといらいらしてただけで、本気じゃないんで。わたしからも謝るので忘れてくださいね。それじゃ、失礼します~」

 まだ放心状態の奏多さんを佐々木さんが引っ張る。結局ふたりは、笹井田商事のビルの前から逃げるように立ち去った。
 彼らと入れ替えに、夕方廊下でわたしの噂話をしていた同僚の女性社員が近づいてくる。

「浅野さん、もしかして結婚決まったの?」
「え、ええ。決まった……のかな?」

 ちょっと曖昧に微笑む。契約ではあるけれど、プロポーズされたし指輪ももらった。おなかには赤ちゃんもいるし、婚約したといってもいいのよね?
 同僚は少し引きつった顔で、小平さんたちが立ち去った方角を見て、わたしに向き直った。

「お、おめでとう。小平さんのこと、ほんとになんとも思ってなかったんだ」
「うん、そうね」
「そっか、さっきはごめんなさい。あの……素敵な婚約者さんね」

 わたしの隣に立つ伊織さんをちらりと見上げる。彼女の頬がほんのり赤らんだ。そして、伊織さんとわたしに軽く頭を下げる。
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