契約結婚のはずなのに、予定外の懐妊をしたら極甘に執着されました~強引な鉄道王は身ごもり妻を溺愛する~
2.豪邸の理由
会社からさらわれるようにして、車に乗せられ、二、三十分ほど。
到着したのは郊外にある高級住宅街だった。
一戸ごとの区画が大きく、塀も長くて高いけれど、緑が豊かで圧迫感は少ない。街灯に照らされた街は静かで品があり、わたしのアパートがある雑多な地域とは、同じ東京なのにまったく雰囲気が違った。
電動の門扉が動き、車は一軒の家の敷地に入っていく。
「ここは……?」
東京の一等地とは思えないほど、門からのアプローチが長い。ライトアップされた植栽の先にアーチ形の玄関ポーチがあり、車はそこに横づけされた。
「もしかして伊織さんのご自宅なんですか?」
「ああ、今日からな」
「今日から?」
伊織さんに手を引かれて車から降りる。改めて見上げると、白い壁にオレンジ色の屋根の大きな一戸建てだった。
「うわぁ」
立派な邸宅だ。ひと目見て驚いたのは、このお屋敷が平屋であること。
いくら高級住宅街とはいえ、ここは東京だ。周囲の豪邸も、二階建てや三階建てのお宅が多かった。その中で横に広い平屋の建物は、ひどく贅沢に感じる。