もう一度、重なる手
6.執着

「検査の数値を見る限り、貧血気味だけどものすごく深刻ってわけでもなさそうだね」

 貧血の検査結果が出たというので昼休みに五階の内科クリニックを訪れると、診察室から出てきたアツくんが結果表を渡してくれた。

「だから心配ないって言ったのに」

「深刻ではないけど、心配ないってことはないよ。赤身のお肉とか、鉄分のとれるものをちゃんと食べて、少しでも改善させないと」

「お肉……」

「今から食べに行く? このビルから五分くらい歩いたところに焼肉屋さんがあるよ」

 結果表を半分に折りたたんでカバンに入れていると、アツくんが唐突に提案してくる。

「え、今から焼き肉? それはさすがに無理だよ。午後から仕事があるのに服に匂いがついちゃうし。アツくんだって、午後から診察でしょ。それに……」

 途中まで口にしかけた言葉を飲み込むと、アツくんが腰を屈めて私の顔を覗き込んできた。

「小田くんに見られたら困る?」

 言い淀んだ私の代わりに、アツくんが翔吾くんの名前を口にした。

「うん……」

 視線を落として頷くと、アツくんが私の頭に手を置いて優しく撫でてくれた。

「わかった。じゃあ、お肉はまた今度」

「うん」

 翔吾くんの監視がある限り、アツくんとの食事の約束が実現することはないだろうな。そう思いながら、曖昧に頷く。
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