もう一度、重なる手
「じゃあ、私、コンビニでお昼ごはん買って、上の休憩スペースで食べるね。検査の結果、ありがとう」
私はそう言うと、午前と午後の診察の合間、私のために特別にクリニックを空けてくれたアツくんと受付の女性に頭を下げた。
「コンビニでごはんを買うなら、ゼリーじゃなくて、おかずの種類が多いお弁当にしなよ」
「わかった」
心配しておせっかいを焼いてくるアツくんに苦笑いを返すと、内科クリニックの外に出る。
クリニックから出て廊下を少し進んだところにあるエレベーターの前で待っていると、上から降りてきたエレベーターが五階に到達する直前で「フミ」と背中から呼ばれた。
振り向く私に、クリニックから出てきたアツくんが駆け寄ってくる。
「これ、今日返そうと思ってたのに忘れてた」
アツくんに手渡されたのは、貸したままになっていた文庫本だった。
「ありがとう。もう読み終わってるから、いつでもよかったのに」
「でも、今日を逃したら次にいつ渡せるかわからないから」
眉尻を下げて少し困ったように笑いかけてくるアツくん。
さっきは軽いノリで私を食事に誘ってきたけれど、ほんとうはアツくんも私との口約束がそう簡単には実現しないことをわかっているのだろう。
今ここでバイバイしたら、次にアツくんと顔を合わせられるのはいつになるだろう。
いっそ、検査の結果が思いきり悪かったほうが、無条件にアツくんに会いにくる理由ができたのかな。
つい不謹慎なことを考えていると、頭上からポンっと電子音が聞こえてきた。
五階に到着したエレベーターの扉がゆっくりと開く。