もう一度、重なる手
「おい、聞いてんのか?」
扉の近くに立つ男性の声が鋭くなる。
翔吾くんの冷たい視線と男性の苛立った声。その両方に怯えてビクつくと、後ろから回されたアツくんの手が私の肩にそっと触れた。
「すみません、行ってください。上なので」
アツくんが低姿勢な態度で謝ると、苛立っていた男性は無言で私を睨んで扉を閉めた。
ゆっくりと閉まっていく扉の向こうで、翔吾くんだけが感情の読めない瞳でじっとこちらを見つめてくる。
扉が完全に閉まってエレベーターが階下へと移動していくと、私の膝からガクッと力が抜けた。
「わ、っと……。フミ、大丈夫?」
アツくんが、倒れそうになった私の身体を両腕に受け止めてくれる。
大丈夫――? 大丈夫だろうか。
エレベーターの扉が閉まりきる間際まで私を直視していた翔吾くんの突き刺すようなまなざし。あれは、絶対に大丈夫じゃない……。
「どうしよう。今すぐ追いかけて……、違う、翔吾くんに電話して……」
震える手をカバンに入れて、スマホを探す。
いつもはすぐに見つかるスマホをなかなか取り出せずに手間取っていると、アツくんが背中からぎゅっと私を抱きしめてきた。