もう一度、重なる手

「フミ、落ち着いて」

 耳元で優しい声にゆっくりと囁かれて、動揺して冷えた身体に少しずつ温度が戻ってくる。

「フミは最近、ここのビルの休憩スペースでごはん食べてるんだっけ?」

 私の震えが落ち着くのを待ってから、アツくんが話しかけてくる。肩越しに振り向きながら頷くと、アツくんがふっと目尻を下げた。

「じゃあ、そこで一緒にごはん食べようか。あそこはビルのテナントの従業員専用で、入口でパスワード入力しないとドアから入れないようになってるし、小田くんが来る心配もないよね」

「でも、私、コンビニで買わないとごはんなくて……。それに、今はあんまり食べる気分じゃ……」

「じゃあ、俺が何か飲み物買ってきてあげるから、フミはこのままエレベーターで十五階まで上がって先に休憩スペースで待ってて。小田くんが待ってたらって思うと、すぐに下に行くのは怖いでしょ」

「だからって、アツくんに買いに行かすのは悪いよ。休憩スペースに自販機あるから、そこで飲み物だけ買えば充分」

「飲み物だけで済ませちゃダメだよ。さっき言ったばかりだよね」

「そう、だけど……」

 アツくんの気遣いは嬉しいけど、いくらなんでも立て続けに迷惑かけすぎだ。それに、甘え過ぎてる。
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