もう一度、重なる手
うつむいて口ごもると、アツくんが私をあやすように頭を撫でてきた。
「どうせフミのことだから、俺に甘えちゃだめだとか迷惑かけられないとか思ってるんだろうけど、今さらだよ。それに、俺はひとりで我慢されるより、フミに甘えられたり頼られたりするほうが嬉しい」
甘いセリフにドキリとして顔をあげると、目が合った瞬間にアツくんがふっと吐息を零して笑う。その笑顔に、胸がきゅっと詰まった。
昔、ほんの数年家族だっただけなのに。アツくんは、いつも私に優しすぎる。
アツくんにどんな顔を返せばいいのかわからなくて困っていると、上に向かうエレベーターがやってきて、私たちの前で扉を開けた。
「ほら、乗って」
たまたま無人だったエレベーターに、アツくんが私の背中を押し込む。
「あとで行くから、休憩スペースの席取っといて」
私ににこっと笑いかけると、アツくんがエレベーターの「閉」ボタンを押してさっと外側に身を引く。
閉まっていく扉の向こうで手を振るアツくんに小さく手を振り返しながら、私は少し困っていた。
エレベーターの壁に背をつくと、両腕で自身を抱き締めるように肩に手で触れる。そこにはまだ、アツくんの手の感触が残っているような気がした。
翔吾くんは怖い。だけど、アツくんの優しさに甘えて頼りきってしまうのも怖い。
アツくんは、妹として私の世話を焼いてくれているだけなのに。弱っているときにあまりに優しくされたら、アツくんに対して秘めている気持ちが、抑えられなくなってしまう。